お疲れ様です。親子丼うまみです。
本日は、普段から注目している電力会社の動向から一歩掘り下げて、電力会社が発電の為に使用する製品を製造、納入する製造メーカーの動向に焦点を当てて、今後のシナリオを推測していきたいと思います。
日本政府のエネルギー方針
直近では、既存原子力発電所の稼働期間延長が話題になっていますね。
東日本大震災以降、原子力活用の話題は下火でしたが、電力の安定供給と脱炭素の潮流を受けて原子力活用へ大きく舵を切ったと見受けられます。
こちらの記事でも述べている通り、政府のエネルギー基本計画では、将来電源構成の20~22%を原子力エネルギーで賄うエネルギーミックスの方針が示されています。
上記に加えて、直近では「エネルギー安全保障」という言葉を良く目にするようになりました。
これは、エネルギー資源の9割を海外に依存する日本にとって最大の懸念事項であり、最重要課題だと認識しています。
この重要課題に対して、「革新軽水炉」の貢献による原子力利活用が検討されています。
文献を調査する中で、「日本の原子力発電所は国産化率が概ね9割を越えており、国内に技術が集積されている数少ない産業。」、「安定的な電力供給を行うサプライチェーンが国内で完結するが、昨今の情勢から原子力発電所建設が全く無い事からサプライチェーンが弱体化している。」という事実は、日本経済の失速を代表している様に感じました。
革新軽水炉とは?
そもそも革新軽水炉ってなんやねん。という話になりますが、うまみのざっくり理解では「福島第一原子力発電所事故の教訓」を既存の軽水炉に盛り込んだもの。と理解していました。
今回きちんと定義を確認した所、元経済産業省のJEPIC(海外電力調査会)による革新炉の定義は下記の通りでした。
革新炉とは、「出力30万kW以上の安全性、廃棄物、エネルギー効率、核不拡散性等の観点から優れた技術を取り入れた先進的な原子炉」のこと。
2022年3月28日 JEPIC 世界の革新炉 開発動向(資料4)より引用
安全性は当然の上で、エネルギー効率や核廃棄物等に対しても先端技術を適用した原子炉という事ですね。
更に深堀すると、事故耐性燃料棒の開発や再生可能エネルギー発電との競合時間余剰電力で水素製造へ転用等、新たな試みが次々と打ち出されています。
沸騰水型革新軽水炉(BWR)の動向
現在、東日本を中心に展開する原子力発電所の軽水炉は、沸騰水型軽水炉(BWR:Boiling Water Reactor)と言われる方式を取っています。
当該原子力プラントの製造メーカーは、日本の製造業を代表する「東芝」、「日立製作所」、米国大手の「ゼネラル・エレクトリック社(以下、GE社)」と、旧東芝傘下の「ウェスティングハウス・エレクトリック社(以下、WEC社)」により、開発、製造、建設、アフターサービスが行われています。
実際は、未記載の複数企業も複雑に提携や協業していますが、ここではBWRチーム代表として割愛させて頂きます。
東芝では、次世代炉として革新的大型安全炉 iB1350の開発。
新型炉として、①超小型炉MoveluX™、②小型高速炉、③高温ガス炉HTGRの開発を進めています。
日立製作所では、新型炉として①小型モジュール炉SMRの開発、②資源再利用型BWR、③小型液体金属冷却高速炉PRISMの開発を進めています。
今回は、少し先の未来を見通したい為、中長期的な戦略である新型炉に関しては割愛し、短期的な戦略である次世代炉に絞って見ていきたいと思います。
革新的大型安全炉 iB1350の開発を推進
2022年初旬、東芝では次世代炉「iB1350」の開発へ取り組んでいます。
新規性基準に対応した設計は勿論の事、事故耐性燃料の適用や静的安全性を高めた設計から、事故発生時でも緊急避難を要さない。というコンセプトで開発されています。
既存のABWRをベースとしており、今後のリプレースや新設は、この革新軽水炉になっていくと考えています。
エンジニアとしての目線で考えると、一度設置したものを「国内世論が許さない」という感情的な視点で、保守間隔を狭めて古いまま使い続ける。というのは意味不明であり、最新技術を駆使して安全性を高めた原子炉への置換を早期に進めて行って欲しいという思いです。
最も重要な原子力エンジニアの技術伝承がリプレースを通じて日本国内に蓄積される事も、将来の日本の原子力エネルギーにおける国際的な立場を強固にしていくと考えています。
加圧水型革新軽水炉(PWR)の動向
西日本を中心に展開する原子力発電所の軽水炉は、加圧水型軽水炉(PWR:Pressurized Water Reactor)と言われる方式を取っています。
当該原子力プラントの製造メーカーは、日本最大財閥の一角である「三菱重工業」、仏国大手の「アレバ社」により、開発、製造、建設、アフターサービスが行われています。
三菱重工では、革新軽水炉SRZ-1200と小型モジュール炉、高速増殖炉や高温ガス炉等、原子力プラントメーカーとして次々と開発を公表しています。
こちらも少し先の未来を見通したい為、新型炉に関しては割愛し、革新軽水炉に焦点を当てて見ていきたいと思います。
新型革新軽水炉SRZ-1200の開発を推進
2022年初旬、三菱重工の原子力セグメントは「革新軽水炉SRZ-1200」の開発に取り組んでいます。
こちらも新規性基準に対応した設計は勿論、前述のBWR型の革新軽水炉に匹敵する大幅な安全性向上策が盛り込まれています。
期待したいと思った所は、原子力発電所をベースロード電源として稼働させ、変動幅の大きい昼間の再生可能エネルギーとの競合時間で余剰となる電力を使って水素製造を企図している点です。
本来、脱炭素の潮流は三菱重工業や川崎重工業、IHIといった火力発電事業に必要なガスタービンを製造する企業にとって逆風ですが、次世代原子炉にて安価に水素製造が可能となれば、これらの企業が別途開発を掲げる水素燃焼によるガスタービンの需要も高まり、現状火力発電に頼らざる負えない新興国市場では、既存の火力発電所のガスタービンを水素用に改修する事で脱炭素を実現していく事が可能。というシナリオが描けます。
SRZ-1200は、三菱加圧水型軽水炉の第四世代にあたり、今後は新規性基準に適合した当該炉が西日本へ新たに展開されていくのだろう。と考えています。
原子燃料製造企業の動向
原子燃料サイクルへ向けた会社分割
2022年11月、三菱重工は傘下に収める「三菱原子燃料株式会社」を、燃料加工事業のみ残して「MHI原子燃料株式会社」とし、残りの部門を原子力セグメントに吸収すると公表しました。
再編の目的は、下記の通りです。
三菱重工グループとして原子燃料事業をより安定的に継続するとともに、営業及び燃料/炉心/プラント設計部門を当社に集約し、一体運営を強化することにより、今後の燃料・プラント運用高度化や安全性向上に向けた新技術開発などを強力に推進すべく、原子燃料事業運営体制の見直しを行う。
つまり、個々の営業/設計部門を本社に集約し、個々最適化した設計にするのではなく、原子力プラント全体で最適化した設計を行っていく。という運営体制の見直しと理解しました。
うまみとしては原子力発電にとって前向きな動きであると受け取りました。
原子燃料を貯蔵する乾式キャスクの動向
同じく三菱重工ですが、2022年初旬、四国電力伊方原発向けに使用済み核燃料を輸送・貯蔵する為の「乾式キャスク」の製造を開始しています。
2025年までに45基分を順次納入する計画で、使用済み燃料プールで冷却が進んだ使用済み核燃料を青森県六ケ所村の日本原燃六ケ所再処理工場へ輸送する計画です。
まとめ
以上の調査から読み取れた事です。
◆短期的には、既存原子炉の寿命延長で対処しつつ、将来の拡張性を残す。
◆中期的には、「革新軽水炉」による既存原子炉の置換を進める。
そして、既に原子炉メーカーでは「革新軽水炉」の開発に動き始めている。
◆長期的には、SMRや高温ガス炉等の「次世代炉」の試験研究を進め、新増設を目指す。
キャスクの動向からも、日本国として原子燃料サイクルを確立する方針は変わっていない。という事が読み取れ、短中期的に青森県の日本原燃 六ケ所再処理工場によるMOX燃料を使った原子燃料サイクルが確立され、原子力発電が日本のベース電源を担っていくであろう。というシナリオを、今後の中心に添えさせて頂きます。
以上、親子丼うまみの稚拙な調査結果でした。
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